カスタマーハラスメント対策の進め方|方針・相談窓口・現場の対処手順を決める表
対策は、相談窓口を作るだけでは足りません。①正当な苦情とカスタマーハラスメントの区別、②毅然と対応し労働者を守る方針、③現場での対処の内容(誰に報告し、誰が引き継ぐか)、④相談窓口と事後対応、⑤特に悪質な事案への対処方針を、自社の業務に合わせて決めます。本記事の成果物は「カスハラ対処手順表」と「対策の点検表」です。
1.法改正と指針の内容を確認する
2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法等(令和7年法律第63号)により、カスタマーハラスメントを防止するため事業主に雇用管理上必要な措置が義務付けられ、2026年10月1日に施行されました。具体的な措置は「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)に定められています。厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」/指針。
厚生労働省の説明資料によると、職場におけるカスタマーハラスメントは、①顧客等の言動であって、②労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもので、三つの要素を全て満たすものとされています。顧客等からの苦情の全てが該当するわけではなく、社会通念上許容される範囲の申入れは正当な申入れとされ、電話やSNS等のインターネット上の言動も含まれます。厚生労働省「職場におけるカスタマーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針について」。
2.事業主が講ずべき措置を一覧にする
同資料は、事業主が必ず講じなければならない措置として次を挙げています。出典:厚生労働省。
| 区分 | 措置の内容 |
|---|---|
| 方針の明確化・周知 | カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化して周知・啓発する。カスタマーハラスメントの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を周知する |
| 相談体制 | 相談窓口をあらかじめ定めて周知し、担当者が適切に対応できるようにする |
| 事後の対応 | 事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者への配慮の措置を行い、再発防止に向けた措置を講ずる |
| 実効性の確保 | 特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処の方針をあらかじめ定めて周知し、対処を行える体制を整備する |
| 併せて講ずべき措置 | 相談者等のプライバシーの保護、相談したこと等を理由とする不利益な取扱いをしない旨の周知 |
資料は、対処の内容の例として、管理監督者に指示を仰ぐ、可能な限り労働者を一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部等へ情報共有を行うことを挙げています。また、対策の際には消費者の権利や、障害者差別解消法における不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務に留意する必要があるとしています。
3.正当な苦情との区別を、自社の業務で具体化する
指針の判断要素は「言動の内容」と「手段・態様」です。自社の業務で起きうる場面を、要求の内容と手段に分けて例示し、現場が迷ったときの報告先を決めます。事業主側の不適切な対応が言動の背景になっている場合もあるとされているため、苦情の内容そのものは品質改善の情報として別に扱います。
| 場面(編集部の例示) | 正当な申入れとして扱う部分 | 対処が必要になりうる部分 |
|---|---|---|
| 商品の不具合の連絡 | 交換・返金の要求、原因の説明の求め | 契約内容を著しく超える補償の要求、土下座の強要 |
| 電話での問い合わせ | 同じ点の確認、担当者変更の要望 | 長時間にわたり電話で拘束する、暴言を繰り返す |
| SNSでの言及 | サービスへの批判的な評価 | 従業員の個人情報の投稿、投稿をほのめかした脅し |
4.カスハラ対処手順表を作る
対象となる業務・窓口(店舗、電話、訪問、オンライン)/現場の最初の対応(記録、一人で対応しない、上位者への報告)/その場で引き継ぐ管理監督者と不在時の代替者/対応を打ち切る判断基準と判断者/警察への通報基準/本社・本部への報告ルートと期限/記録する事実(日時、場所、言動、対応者、録音・録画の有無)/被害を受けた従業員への配慮(交代、休憩、相談窓口の案内)/事後の事実確認と再発防止の担当/特に悪質な事案の対処(取引停止、出入り禁止の判断者等)。
方針や対処の内容を就業規則や社内規程に反映する場合は、就業規則の改定手順で手続を管理します。従業員への説明は人事制度変更の説明表を使います。
5.架空例:飲食店チェーンが対処手順を決める
以下は顧客実績ではない架空例です。
| 項目 | 架空の記入例 |
|---|---|
| 最初の対応 | アルバイトは店長または時間帯責任者に交代を求める。一人で謝罪を続けない |
| 打切りの判断 | 30分を超えて同じ要求が続く場合、店長が対応終了を伝える(時間は自社で決める仮定値) |
| 報告 | 当日中にエリア責任者へ報告し、記録様式に入力 |
| 従業員への配慮 | 対応した従業員をその日のシフトから外すかを本人と相談し、相談窓口を案内 |
| 再発防止 | 月次で記録を集計し、原因が商品・接客にある事例は品質改善会議へ回す |
6.研究から言えること、言えないこと
Wang・Liao・Zhan・Shi(2011)は、コールセンター従業員131人の日次調査データをマルチレベル分析し、日々の顧客からの不当な扱い(customer mistreatment)が、その日の従業員による顧客への妨害行動を有意に予測したこと、その関係は従業員の否定的感情傾向で強まり、感情調整の自己効力感、勤続年数、サービス規則へのコミットメントで弱まったことを報告しています。原著論文(Academy of Management Journal)。
この研究は特定の国・業種の従業員を対象とした観察研究であり、日本の法令上の措置の効果を検証したものではありません。本記事では、顧客からの不当な扱いが従業員本人だけでなく、その後の顧客対応にも影響しうるため、個人の我慢に任せず組織として対処手順を決める理由として参照しています。手順表・点検表はCareerSync編集部の設計例です。
よくある質問
BtoBの取引先からの言動も対象になりますか?
指針の「顧客等」には、取引の相手方(今後取引する可能性のある者を含む)も含まれるとされています。営業や購買の担当者にも手順を周知してください。
自社の従業員が取引先にカスハラをした場合はどうなりますか?
厚生労働省の資料は、取引先等の事業主から事実確認等への協力を求められた場合は応じるよう努めなければならないとしています。社内のハラスメント相談と同じ窓口で受け付けるかを決めておきます。
まず、顧客と接する業務・窓口を一覧にし、それぞれの「その場で引き継ぐ人」を一行ずつ書いてください。経営人事パートナー支援では、ハラスメント対策の方針、相談体制、規程改定、管理職研修を一続きで整えます。
出典確認:2026年11月7日。個別の事案の判断や法的対応は、都道府県労働局(雇用環境・均等部(室))、弁護士、社会保険労務士等へご確認ください。手順表、点検表、場面の例示、架空例の時間などはCareerSync編集部の設計例であり、公的な基準や特定企業の実績ではありません。
この記事はCareerSyncの支援方針・実務上の考え方を整理したものです。個別の顧客事例や成果の報告ではありません。
