人件費計画・最低賃金

最低賃金の引上げで自社の賃金を点検する方法|月給の時間額換算と人件費影響の確認表

最低賃金の改定に備えるときは、時給者だけを見ず、月給者・日給者を含む全員の賃金を時間額に換算し、最低賃金の対象とならない手当を除いて、適用される地域・発効日の最低賃金額と比べます。

そのうえで、①法定の下限を下回る人の補正、②補正後に差が縮まる直上の賃金層の扱い、③発効日から期末までと翌期通年の人件費影響を分けて判断します。本記事の成果物は「最低賃金点検表」と「人件費影響・調整判断表」です。

1.今年度の改定額と発効日を、事業場ごとに確認する

厚生労働省は2026年9月3日、令和8年度の地域別最低賃金について全都道府県の答申を公表しました。全国加重平均は1,177円(前年度1,121円から56円引上げ)、最高額は1,280円、最低額は1,085円で、改定額は2026年10月1日から12月2日までの間に順次発効する予定とされています。厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」。

全国平均は自社の判断基準になりません。確定額と発効日は、事業場の所在地の都道府県労働局が示すものを確認します。地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金が同時に適用される場合は高い方以上を支払う必要があり、派遣労働者には派遣先の最低賃金が適用されます。厚生労働省「最低賃金制度の概要」/派遣労働者の最低賃金。

確認項目記入内容確認先
事業場本社、店舗、工場、営業所ごとの所在地事業場一覧・雇用契約
適用される最低賃金地域別、特定(産業別)の有無と高い方の額都道府県労働局
発効日事業場ごとの発効日と、その日を含む賃金計算期間労働局の公表資料・給与締め日
派遣労働者派遣先事業場の所在地と適用額派遣契約・派遣元への確認

2.比較する賃金から、対象外の賃金を除く

最低賃金の対象は「毎月支払われる基本的な賃金」です。臨時に支払われる賃金(結婚手当など)、1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)、時間外・休日・深夜の割増賃金など、精皆勤手当、通勤手当、家族手当は対象になりません。厚生労働省「対象となる賃金は?」。一方、厚生労働省の計算例では職務手当は除外されないと説明されています。厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」。

自社の手当が名称どおりの性質か判断がつかない場合は、名称だけで除外せず、支給条件を賃金規程で確認し、必要に応じて都道府県労働局または労働基準監督署へ照会します。

3.支払形態ごとに時間額へ換算する

厚生労働省が示す比較方法は次のとおりです。出典:最低賃金額以上かどうかを確認する方法。

支払形態比較方法
時間給制時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)
日給制日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)。日額の特定(産業別)最低賃金が適用される場合は日給と日額を比較
月給制月給 ÷ 1箇月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
出来高払制・請負制賃金総額 ÷ その期間に実際に働いた総労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
組み合わせ各部分をそれぞれ時間額に換算して合計し、最低賃金額(時間額)と比較

1箇月平均所定労働時間は、就業規則・年間カレンダーに基づく自社の算定根拠と一致させます。部署やシフトで所定労働時間が違う場合は、全社平均で一括計算せず区分ごとに計算します。

最低賃金点検表

社員番号/事業場・適用最低賃金額・発効日/雇用区分・支払形態/基本給・対象となる手当/除外した手当と除外理由/所定労働時間(日・月平均)/時間額換算/差額(時間額・月額)/補正後の額/直上の賃金層との差/確認者・確認日。

4.架空例:月給者と時給者を同じ表で点検する

以下は顧客実績ではない架空例です。最低賃金額1,180円は計算説明のための仮定であり、特定の都道府県の金額ではありません。

区分架空の条件時間額換算判定・必要な補正
月給者A基本給180,000円、職務手当10,000円、通勤手当8,000円、家族手当5,000円。年間所定労働時間1,960時間(月平均約163.3時間)(180,000+10,000)÷163.33≒1,163円下回る。対象賃金を月192,734円以上にする必要があり、月2,734円以上の補正
時給者B時給1,150円、月所定約100時間1,150円下回る。時給1,180円以上へ補正(月約3,000円)
時給者C時給1,190円、Bより1段階上の担当1,190円下回らない。ただしBとの差が40円から10円へ縮む

Aは月給額だけを見ると問題に気づきにくい例です。通勤手当と家族手当を含めて計算すると誤って「以上」と判定します。Cは法令上の補正対象ではありませんが、役割差を賃金差で説明している会社では、次の判断が必要になります。

5.人件費影響を「当期」「翌期通年」「連動費用」に分ける

補正額は発効日を含む賃金計算期間から発生します。期末までの月数で当期影響を、12か月分で翌期通年影響を計算し、割増賃金の基礎、法定福利費、賞与や退職金の算定基礎など自社規程で連動する費用は別行で計算します。

項目(架空例)対象月額増加当期(発効から期末まで4か月と仮定)翌期通年
法定下限への補正(月給者)Aと同条件の3名8,202円32,808円98,424円
法定下限への補正(時給者)Bと同条件の12名36,000円144,000円432,000円
直上層の調整Cと同条件の5名方針決定後に計算——
連動費用割増賃金・法定福利費・賞与算定基礎など自社の料率・規程で計算——

年度途中の更新は人件費の着地見込みの更新表へ反映し、昇給原資との関係は昇給予算の配分表で整理します。

6.最低賃金研究から分かること、分からないこと

Cengiz・Dube・Lindner・Zipperer(2019)は、米国で1979〜2016年に実施された138の州レベルの最低賃金改定を差の差分法で分析し、改定後5年間で低賃金の雇用数はほぼ変わらず、賃金分布の下位では小幅な波及(spillover)により平均賃金への直接効果が増幅されたと報告しています。一方で、貿易財部門では雇用が減少した兆候も示されています。原著論文(The Quarterly Journal of Economics)。

この研究は米国の地域労働市場全体を対象とした観察データの分析で、日本の個別企業が直上層をいくら引き上げるべきかを示すものではありません。本記事では「最低賃金の直上にいる層の賃金も動きうる」ため点検対象に含める、という範囲で参照しています。点検表・判断表はCareerSync編集部の設計例です。

7.直上層の調整は、法令対応と分けて判断する

選択肢向く条件確認すること
法定下限への補正のみ等級・役割差を賃金以外でも説明でき、原資の制約が大きい差が縮んだ層への説明、次回昇給での扱い
直上層も同時に調整役割差を時間額差で示しており、差の縮小が配置・採用に影響する調整範囲の線引き、当期・通年の追加額
賃金表・等級レンジの見直し毎年の改定で下位等級の差が繰り返し縮む制度改定の時期、他等級への波及

新規採用の提示額との逆転が同時に起きている場合は、報酬圧縮の点検表で役割差と未説明差を分けます。

賃上げや採用に使える人件費の上限は、粗利と人件費をつなぐ確認手順で確かめられます。

よくある質問

試用期間中は最低賃金を下回ってもよいですか?

会社の判断だけで下回ることはできません。試用期間中の者などについては、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件とする減額の特例制度があります。対象・要件は所轄の労働局で確認してください。滋賀労働局「最低賃金の減額の特例許可申請について」。

点検はいつ行えばよいですか?

答申・決定の公表後、発効日を含む給与計算期間より前に終えます。毎年の作業として人事年間計画へ組み込み、採用時の提示額も同じ表で確認します。

まず、月給者を含む全員の「対象となる賃金」と「所定労働時間」の2列を埋めてください。人員・人件費計画支援では、最低賃金への対応を昇給原資、賃金表、採用計画と一緒に整理します。

出典確認:2026年10月29日。法令の個別適用は都道府県労働局、労働基準監督署、社会保険労務士等へご確認ください。点検表、架空例、仮定の最低賃金額はCareerSync編集部の設計例であり、特定企業の実績や公的な様式ではありません。

この記事はCareerSyncの支援方針・実務上の考え方を整理したものです。個別の顧客事例や成果の報告ではありません。

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